ハダカデバネズミは、なぜ痛みに鈍いのに“触りすぎる顔”をしているのか

Creatures You Didn’t Expect

地下で暮らすのに、なぜ顔まわりの触覚だけが忙しいのか

ハダカデバネズミを見ると、まず気になるのは“無防備さ”よりも、顔の落ち着かなさかもしれません。つるっとした体に対して、口元や顔まわりだけが妙に情報を集めていそうに見えます。しかもこの動物は、酸や一部の化学刺激による痛みに鈍いことでよく知られています。

その組み合わせは少し変です。痛覚が低下しているなら、感覚全体が鈍い方向に進んでもよさそうなのに、口元や体毛はむしろ細かな接触を拾う装置のように見えるからです。

ここで気になるのは、地下生活がなぜ“感じない”だけでなく、“別の感覚を増やす”方向にも進んだのかという点です。

“痛みに鈍い”は、感覚全体が弱いという意味ではない

ここで大事なのは、ハダカデバネズミが“全部の痛み”に鈍いわけではないことです。研究でよく取り上げられるのは、酸性環境や一部の刺激に対する反応の弱さです。

地下の巣穴は換気が悪く、二酸化炭素が高まりやすい環境です。そうした環境との関連が考えられており、過剰に痛み信号を出さない仕組みへの適応の可能性が指摘されています。

つまり、これは感覚の全面的な低下ではありません。むしろ“反応しなくていい刺激”を弱めた、と見るほうが実態に近いです。痛覚低下は鈍感さそのものではなく、地下での生活に合った調整として理解できます。

口元や体毛の触覚探索は、暗いトンネルで環境を読むためにある

では、顔の“うるささ”は何なのか。鍵になるのは、顔や体に散らばる感覚毛です。ハダカデバネズミは視覚に頼りにくい地下で、壁や空間の形状を触覚で把握し、移動や方向づけに役立てていると考えられています。

ふつう哺乳類の触覚というとヒゲを思い浮かべますが、この動物の触覚はもっと全身的です。顔まわりを含む全身の感覚毛が、接触による環境把握に役立っていると考えられています。痛みに鈍いことと、細かな触覚探索が強いことは、地下で必要な情報の種類が違うと考えると同時に成り立ちます。

地下性哺乳類に共通するのは、見えない環境で使う感覚を増やすこと

地下トンネルの暮らしでは、遠くを見る能力より、目の前の壁を正確に読む能力のほうが重要になります。しかもハダカデバネズミは、狭く、暗く、混み合った空間で集団生活をしています。

こうした環境では、ちょっとした刺激への過敏さが移動や作業の妨げになった可能性もあります。一方で、接触の精度が低いと、壁に沿って動くことも、すれ違うことも、掘ることも、向きを変えることも不安定になります。

この点は、地下性哺乳類の感覚配分という見方をするとわかりやすくなります。たとえばモグラ類でも、見えにくい環境で触覚や鼻先の情報が重要になりますし、ホシバナモグラのように触って世界を高精度で読む方向へ特化した例もあります。ハダカデバネズミもまた、痛みを一様に強めるのではなく、地下で必要な接触情報の精度を優先した動物として読めます。

https://www.nationalgeographic.com/animals/article/naked-mole-rat-facts

鈍感なのではなく、必要な感覚だけを極端に残した

ここがおもしろいところです。ハダカデバネズミは、感覚を失った動物というより、感覚の“予算配分”が極端な動物に見えます。地下でノイズになりやすい刺激は弱める一方で、生きるのに必要な接触情報は残すどころか、かなり強く頼っています。

その結果として、あの顔は無表情ではなく、むしろ仕事の多い顔になります。“痛みに鈍いのに触覚にはうるさい”のは矛盾ではなく、役に立つ感覚と、うるさすぎる感覚を選び分けた結果です。

https://www.nih.gov/news-events/nih-research-matters/how-naked-mole-rats-block-pain

ハダカデバネズミの不思議さは、何を感じないかより何を増やしたかにある

ハダカデバネズミの顔が気になるのは、そこに“鈍感な動物”の顔らしくない情報量があるからです。でも実際には、その違和感こそが正しいのだと思わせます。

暗い地下では、感覚は多ければいいわけではありません。役に立つ形で残っているかどうかが重要です。

だからこの動物の不思議さは、痛みに強いこと単独ではなく、何を切って何を残したかにあります。顔の触覚がうるさいのは、世界を雑にしか感じないからではない。むしろ、見えない場所で暮らすには、そこだけは雑にできなかったのです。

痛覚低下と触覚探索の強化は矛盾ではなく、地下生活に合わせた感覚の選び分けです。ハダカデバネズミをおもしろくしているのは、“感じない体”そのものではなく、“必要なものだけはむしろ増やした”という進化の配分にあります。

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地下で暮らすのに、なぜ顔まわりの触覚だけが忙しいのか
“痛みに鈍い”は、感覚全体が弱いという意味ではない
口元や体毛の触覚探索は、暗いトンネルで環境を読むためにある
地下性哺乳類に共通するのは、見えない環境で使う感覚を増やすこと
鈍感なのではなく、必要な感覚だけを極端に残した
ハダカデバネズミの不思議さは、何を感じないかより何を増やしたかにある