枝が多いほど、羽は邪魔になる――モモンガが夜の森で選んだ移動のかたち

Creatures You Didn’t Expect

羽があれば有利、とは限らない

空を移動するなら、羽があるほうが上位。つい、そう考えてしまう。

けれど夜の森を思い浮かべると、その常識は少し怪しくなる。暗くて、枝が多くて、まっすぐ進める空間がそもそも少ないからだ。

モモンガは、そのややこしい空間を生きる。見た目は「飛べそう」なのに、実際には鳥のような羽ばたき飛行はしない。

ただ、そのことは飛行の未完成版という意味ではない。飛ぶ・飛べないの二択ではなく、枝のあいだを移る樹上移動の中間解として見ると、この体の設計はかなり合理的に見えてくる。

むしろその中途半端さが、森ではうまく働いているように見える。滑空の雰囲気は、こちらの短い映像でもつかみやすい。

モモンガは空を進むというより、枝の間を落ちながら選んでいる

モモンガの移動は、鳥の飛行とはかなり違う。高い場所から飛び出し、前脚と後脚のあいだの膜を広げて、少しずつ高度を落としながら次の木へ向かう。

空を支配するというより、落下を制御している感じに近い。

このやり方は、短い距離でも行える場合がある。途中では、体や尾を使って進路を調整することが知られている。

実際の滑空の様子を見ると、一直線に飛ぶというより、着地点を読みながら体を使って進路を決めているのが分かる。

枝が混んだ空間では、長い翼幅や大きな翼が制約になりうる

羽ばたいて飛ぶには、揚力だけでなく、羽を十分に動かせる空間がいる。開けた場所ならそれは強い。

だが枝や葉が重なる森では、長い翼幅や大きな翼は、条件によっては取り回しの制約になりうる。

特に夜の移動では、見えている余白が少ない。そうした環境では、遠くまで飛ぶ力よりも、狭い空間での制御性が重要だった可能性がある。

モモンガの膜は体の輪郭に沿って広がるので、使わないときは体側にたたまれ、跳ぶ・登る・しがみつくといった樹上移動を続けられる。

哺乳類の滑空について整理した概説としては、ブリタニカの flying squirrel の項目が参考になる。

https://www.britannica.com/animal/flying-squirrel

滑空膜は展開と収納を伴い、樹上移動との切り替えができる

モモンガの利点は、速く飛ぶことではない。むしろ、飛び出す瞬間に広げ、着地の直前に姿勢を変え、枝に触れるとすぐに「登る体」に戻れることにある。

滑空膜は飛行専用の大がかりな装置というより、移動モードを切り替えるための薄い拡張に見える。

この切り替えは、夜の森での移動を考えるうえでも示唆的だ。着地前に姿勢を変えて減速し、幹や枝に着地することが観察されている。

飼育下の話ではあるが、滑空が常時必要な運動ではなく、状況に応じて起きる移動手段だという説明も、この性格をよく表している。

高い木が連続する森林では、滑空による木間移動が成立しやすい

モモンガの滑空は、木が高く、しかも完全には離れすぎていない環境でよく効く。高さは位置エネルギーになるし、隣の木までの距離が適度なら、羽ばたかなくても十分に渡れる。

つまり必要なのは大空ではなく、樹冠が連続する立体の通路だ。

ここで面白いのは、森が混んでいること自体が障害であると同時に、滑空を成立させる条件にもなっている点だ。

地面に降りる機会を減らすことは、地上性捕食者への曝露を下げる可能性があるが、それ以上に重要なのは、枝と枝の「あいだ」が細かく用意されていることかもしれない。

森林性の滑空哺乳類の生態を概観する入り口としては、スミソニアンの flying squirrels 紹介も読みやすい。

モモンガが広がれたのは、飛べなかったからではなく、森の混み方に合っていたからかもしれない

モモンガを見ると、つい「もう少しで飛べそうなのに」と思う。けれど夜の森では、その“もう少し”が必須ではなかったのかもしれない。

むしろ、飛びすぎないこと、広げすぎないこと、落ちながら選べることのほうが役に立った可能性がある。

滑空膜は羽の未完成版ではない。枝の多い空間で、木から木へ移ることに適した形だった可能性がある。

森林環境との適合が、モモンガ類の存続や分布に寄与した可能性がある。そう考えると、あの膜は「飛べない証拠」ではなく、森林の枝間移動に適した設計として読める。

分類や分布の基礎情報は、最後に IUCN SSC の概説も確認しておくと全体像がつかみやすい。

In this article
羽があれば有利、とは限らない
モモンガは空を進むというより、枝の間を落ちながら選んでいる
枝が混んだ空間では、長い翼幅や大きな翼が制約になりうる
滑空膜は展開と収納を伴い、樹上移動との切り替えができる
高い木が連続する森林では、滑空による木間移動が成立しやすい
モモンガが広がれたのは、飛べなかったからではなく、森の混み方に合っていたからかもしれない