日本の出版社からのCloudflareへの訴訟について出版社と日本の立場を解説
前回以下の記事を書きました。
今回の記事では出版社と日本の立場に立って議論してみます。
プロバイダ責任制限法とは?
前回の記事でCloudflareとしては
・チェックしてら濫用する人出てくるよね?
・現実問題、多すぎてチェックするリソースがない
・チェックする基準って難しくない?
・何より消しても状況変わらないよね?
という立場というのを解説しました。
同様の問題はYoutubeや2chのような掲示板サービスでも起こりうる問題です。犯罪をレクチャーをする動画、麻薬取引を示唆する投稿や他人への誹謗中傷などをYoutubeや2chが放置しても問題ないのでしょうか?
こうしたフラットフォームを提供する会社に対して課せられる責任として「プロバイダ責任制限法」というのがあります。2025年からは「情報流通プラットフォーム対処法」という名前に改正されました。
この法律ができた経緯は以下の記事が詳しいです。
これらの責任の制限の主な目的は二つです。プラットフォームとしては違法なコンテンツの投稿と流通を事前に防ぐのは難しいです。これらの責任の所在をプラットフォーム側の義務にするとサービスの提供が難しくなります。そこである一定の対応をすれば責任を負わなくてよいと責任範囲を制限する法律がこの法律です。具体的には
・送信防止
・流通
について免除されています。Youtubeに違法な動画が投稿されてもYoutubeの責任ではないし、それを他の人が閲覧(コンテンツの流通)してもYoutubeの責任ではないということです。
ただ責任を免除されるには一定の条件があります。以下の2点です。
・権利侵害情報の削除
・発信者情報の開示
Cloudflareも同様です。違法なコンテンツがあってもこの2点の対応をしていれば彼らの責任ではないということになります。
惨害賠償責任の発生条件と制限の発生条件
プラットフォーム側は以下の場合は責任を負うことになります。
(1) サイト管理者などが、当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき
(2) サイト管理者などが、以下の要件をいずれも満たすとき
・当該情報の流通を知っていたこと
・当該情報の流通によって、他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があること
Cloudflareの例で言うと
・CDN上に違法なコンテンツ(漫画やアニメ)が保存されていた
・そのコンテンツを見ている人がいるのを知っていた
・見ている人がいることによって出版社の権利を侵害しているのを知っていた
この3つの条件が揃った場合、損害賠償の責任が発生します。
これらの責任を回避するには以下のように法律で定められています。
(1) サイト管理者などが、当該情報の流通によって、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき
(2) 以下の要件をいずれも満たすとき
・被害者であることを主張する者から、侵害情報・侵害された権利・権利が侵害されたとする理由(=侵害情報等)を示して送信防止措置を講ずるように、サイト管理者などに対する申し出があったこと
・サイト管理者などが、発信者に対して侵害情報等を示し、送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したこと
・照会の到達日から7日を経過しても、発信者から送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申し出がなかったこと
Cloudflareは以下の対応が必要です。
→出版社からCloudflareへ違法なコンテンツの削除要請があった
→Cloudflareは違法サイトの運営者へ連絡し同意するか確認
→7日経っても違法サイトの運営者から同意しないという連絡がない
→コンテンツを削除
この場合はCloudflareは責任を免れます。
今回のケース
今回、日本の出版社は何度もCloudflareに削除依頼を行ったものの、Cloudflareが適切な対応をしなかったというのが実情です。出版社は
「今回の判決は、高度な匿名性を提供し、侵害通知を無視したことに対する責任に関するものであり、サービスの提供自体や他のCDNサービスプロバイダーに関するものではありません」
と主張しています。
Cloudflareの事情としてはこういった違法なサービスへのアクセスは非常に人気が高く、売上の貴重な柱になっているという点です。海賊版マンガ作品は月間約3億アクセス程あり、アクセス数に比例してCloudflareの売上になります。権利者からの要請をのらりくらりと適当な対応をして時間をかけたほうがCloudflareの利益になるわけです。
またCloudflareのCDNでは「防弾ホスティング」という形で配信者のサーバーの身元を隠すサービスも提供していました。権利者が配信者が誰かを突き止めようとしてもわからないということで悪用が目立っていました。またCloudflareのサービス利用には本人確認も不要なため、より悪用がしやすい形になっていました。
同様の構造はGoogleやMeta、メルカリにも見られます。有名人を前面に出した投資などの偽広告、明らかに不正な方法で入手した商品の転売、これらを放置したほうがGoogle、Meta、メルカリは売上が上がるので積極的に対応はしません。その裏には無視できないお金の力学があるのです。
Cloudflareは度重なる要請に適切に対応しなかったため、このような判決になりました。これは現行の法律を踏まえると妥当な判決と言えます。Cloudflareは内容を精査して削除しておけばこのようなことにならなかったわけです。
CDNは情報の土管なのか?それともコンテンツの配信プラットフォームなのか?
今回の出版社の訴訟と裁判結果はCDNは情報の土管なのか、それとも情報の置き場なのかという点を改めて問い直す性質があります。これまでは情報の流通を提供するインフラ業者は原則として責任を負わないというのが一般的な考えでした。Cloudflareが成長した背景には
・CDNは情報の流通だよね。コピーを置いてるだけだし
・消しても元のサイトにアクセスできるから無意味だよね
・上記の建前でサービス提供すると違法なモノを提供したい人がたくさん利用してくれそう
・そうすれば会社の売上が大幅UP
・違法な人が利用しやすいように本人確認は省略して削除要請も無視しよう
というような解釈もできる状態でした。
CDNが情報の流通として解釈されるとこのような事態になります。今回の判決では
・Cloudflareの主張:流通なので削除要請の対応は不要
・出版社の主張:配信プラットフォームなので削除要請に応じるべき
という主張がぶつかった形になります。結果はCDNは土管ではなくコンテンツの配信のプラットフォームであると認定をした形になります。
日本は漫画やアニメのコンテンツ大国です。自国の国益を守るためという観点からは裁判所がこのような判決を出したのは歓迎されるべきでしょう。