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「会員数は増えたのに売上が伸びない」はなぜ起きる? 小売の会員設計でズレやすい3つの視点

マーケメディア

会員は増えているのに、なぜ売上の手応えが薄いのか

アプリ会員数が伸び、登録キャンペーンも成功した。それなのに売上や利益の実感が薄い。こうした現象は、小売の会員施策でも起こり得ます。

初心者マーケターほど「会員が増えれば成果も増えるはず」と考えがちですが、実際にはその間にいくつかのズレが挟まります。

最近の会員施策が、単純なポイント還元率の競争だけでは語れなくなっているのも、このズレがあるからです。

会員制度は、人数を増やすこと自体が目的ではありません。本来は、再来店や買上点数、継続利用など、特定の行動を育てる仕組みです。

ここを曖昧にしたまま施策を回すと、会員数は増えても、企業にとってうれしい行動は増えません。数字だけが先行し、手応えの薄い状態になりやすくなります。

会員戦略の基本は、LTV(顧客生涯価値)の考え方ともつながっています。全体像をつかむことが、設計のズレを防ぐ第一歩になります。

ポイント還元を強くしても、利益ある利用が増えるとは限らない

ポイント施策は分かりやすく、社内でも通しやすい打ち手です。ただ、還元率を上げれば上げるほど、顧客との関係が深まるとは限りません。

価格に敏感な層が強く反応しやすい傾向があります。つまり、ポイント強化で増えるのは「また来たい顧客」ではなく、「得な時だけ買いたい顧客」かもしれません。

短期売上に寄与する場合がある一方で、設計次第では粗利や通常価格での購買習慣に影響することもあります。

ポイントはロイヤルティ施策の一部であって、万能の答えではありません。だからこそ、会員施策を始めたい初心者マーケターほど、ポイント付与以外に何を設計すべきかを先に整理する必要があります。

“優良顧客化”のつもりが、比較購買を上手にする会員を育ててしまう

ここは意外と見落とされやすい点です。アプリ通知、クーポン配信、会員限定価格、購入履歴に応じた販促は、一見するとロイヤルティを高める施策に見えます。

ただ別の見方をすると、顧客に「今どこで買うのが一番得か」を判断する材料を大量に与えているとも言えます。

その結果、自社の優良会員を育てているつもりが、実際には比較購買がうまい顧客を育成してしまう可能性があります。たとえば、ドラッグストア、スーパー、ECモールを横断し、クーポンと還元率で買い分けるような行動です。

これは顧客が賢くなったという意味では自然です。ただ企業側から見ると、継続利用よりも選別利用を促してしまっている状態でもあります。

アプリ活用や販促の高度化が進むほど、この視点はより重要になります。

会員数・利用頻度・粗利は、同じ方向に伸びるとは限らない

会員施策が難しいのは、良さそうな数字が増えても、別の数字を削っている場合があるからです。たとえば会員数は増えた、来店頻度も上がった、それでも一回あたりの粗利は下がった、ということは起こり得ます。

ここで重要なのは、KPIを一本の列で見ないことです。会員数、アクティブ率、平均買上点数、値引き率、粗利額、通常価格での購買比率は、分けて見る必要があります。

そうしないと、成果の正体を見誤ります。デジタル会員施策の評価では、単なる登録数よりも利用の質を見る視点が欠かせません。

継続行動を見るときも、登録後にどんな利用が続いたのかを追う発想が重要です。

日用品チェーンの仮想事例で見る、ありがちな会員設計のズレ

たとえば日用品チェーンが「アプリ会員100万人」を目標に、初回登録で高ポイントを付与したとします。登録数は伸び、アプリのダウンロードも好調でした。

ところが数か月後に見ると、特売日だけの来店が増え、通常日の購買はむしろ弱くなっていた。こうしたケースは十分に起こりえます。

このとき問題なのは、集客が成功したことではありません。何を習慣化させたかです。

初回登録と高還元を軸にすると、顧客は「登録すること」と「得な日に買うこと」を学習します。一方で、定番品を継続的に買う、アプリを見て新商品を試す、生活導線の中で第一想起になる、といった行動は育ちません。

会員制度設計の考え方を整理するには、ロイヤルティプログラム全体の考え方を学べる解説も参考になります。

最初に設計すべきなのは、何ポイント配るかではなく、どの行動を習慣化したいか

初心者マーケターが最初に考えるべきなのは、還元率ではなく、顧客にどんな行動を続けてほしいかです。

たとえば「週1回来店してほしい」のか、「PB商品を継続購入してほしい」のか、「まとめ買いを増やしたい」のかで、会員設計は大きく変わります。

この順番で考えると、ポイントは目的ではなく手段になります。再来店を促したいなら失効タイミングや来店条件、定番購入を増やしたいならカテゴリー連動、といった設計の違いが出てきます。

また、比較購買を抑えたいなら、値引き以外の便益設計も必要です。先行案内、在庫通知、購入履歴からの補充提案は、値引きだけに頼らないロイヤルティ設計につながります。

これは、単純にポイント付与を増やすだけではなく、『得』以外に継続理由になりうる接点を設計するということでもあります。

実務では、まず「育てたい行動」「避けたい行動」「その判定指標」の3点をそろえるだけでも、会員施策の見え方はかなり変わります。

会員制度を“配る仕組み”で終わらせないために

小売のロイヤルティ施策が、単にポイントを増やす方向では済まなくなっている背景には、企業が複雑なことをしたいからではないという面があります。単純な値引きや付与率だけでは、顧客行動の違いをうまく扱いにくくなっていることも一因と考えられます。

会員数が増えても売上が伸びないとき、見るべきは特典の弱さではなく、学習された顧客行動です。自社は何を増やし、何を減らしたいのか。その設計が明確になれば、会員制度は配る仕組みから関係を育てる仕組みに変わります。

初心者マーケターにとって最初の一歩は、ポイントの量を考える前に、顧客にどんな習慣を残したいのかを言語化することです。

まずは、自社会員施策で『得』以外に継続理由になりうる接点を1つ書き出してみてください。

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会員は増えているのに、なぜ売上の手応えが薄いのか
ポイント還元を強くしても、利益ある利用が増えるとは限らない
“優良顧客化”のつもりが、比較購買を上手にする会員を育ててしまう
会員数・利用頻度・粗利は、同じ方向に伸びるとは限らない
日用品チェーンの仮想事例で見る、ありがちな会員設計のズレ
最初に設計すべきなのは、何ポイント配るかではなく、どの行動を習慣化したいか
会員制度を“配る仕組み”で終わらせないために