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会員施策の勝負は購入前ではなく購入後?Lululemonが価格競争を避けやすい構造を読む
値下げしないと離脱を防げない、という見方をいったん疑う
「会員施策」と聞くと、まずクーポンやポイント還元を思い浮かべる人は多いはずです。短期の売上を動かすうえで、割引はたしかに強力です。
ただ、その強さに頼りすぎると、顧客がブランドに残る理由が「安いから」だけになりやすいという問題もあります。会員制度が関係づくりではなく、価格反応を引き出す装置になってしまうからです。
ポイントや値引き以外で購入後の関係を続ける会員設計を考えるとき、参考になるのがLululemonです。同社は恒常的な大幅値引きへの依存度が相対的に低く、プレミアム価格帯のブランドとして認識されることが多いです。
背景にあるのは、商品購入をゴールではなく、関係の入口にする発想です。ブランドの考え方はMembership紹介ページにも表れています。
https://shop.lululemon.com/story/membership
つまり論点は、「どれだけ安くできるか」ではありません。むしろ重要なのは、買ったあとに顧客がそのブランドの中で過ごす理由を持てるかどうかです。
この視点で見ると、会員施策は単なる販促ではなくなります。購入後の体験設計は、価格以外の軸で関係を続けるための土台になりえます。
Lululemonが売っているのはウェアだけではなく、続けたくなる参加理由でもある
Lululemonはアパレル企業ですが、体験設計の面では服の販売だけで終わっていません。ヨガ、トレーニング、セルフケア、コミュニティ参加といった文脈を商品に結びつけることで、「買って終わり」になりにくい環境をつくっています。
たとえば2022年にはlululemon Studioと新しいMembershipプログラムを打ち出し、コンテンツ、コミュニティ、商品をつなぐ構想を明確にしていました。
https://corporate.lululemon.com/media/press-releases/2022/09-28-2022-143025919
こうした設計によって、ウェアの価値は単体商品の性能比較から少し離れます。「このブランドを使うと続けやすい」「参加したくなる接点がある」という感覚が生まれるからです。
商品そのもののスペックだけで比べられにくくなると、顧客の判断軸も変わります。比較対象は「別ブランドの安いレギンス」だけではなく、「いまの習慣や接点を手放してまで乗り換えるべきか」へ移っていきます。
なお、lululemon Studioの展開はその後見直され、2023年にはStudio Mirrorのハードウェア販売終了が発表される一方で、デジタルフィットネス体験はlululemon Studio appを通じて継続されました。それでも、購入後体験を通じて関係を深める発想そのものは事例として読み取れます。
https://corporate.lululemon.com/media/press-releases/2023/09-27-2023-211026323
割引中心の会員施策と何が違うのか、購入後コミュニティが効く3つの仕組み
比較のために見ると、購入後コミュニティ型の会員施策が効きやすい理由は3つあります。
1つ目は、接点の頻度が増えることです。購入後もイベントやレッスン、会員向け案内などでブランドと接する機会があると、思い出される回数が増えます。
接点が増えるほど、次回購入時の判断は価格だけでは決まりにくくなると考えられます。Lululemonがコミュニティを重視してきた姿勢は、公式の発信でも確認できます。
https://www.lululemon.com.hk/en-hk/c/community
2つ目は、顧客が「使う人」から「参加する人」に変わることです。商品を持つだけなら代替されやすくても、コミュニティに参加している状態には関係コストが生まれます。
友人やインストラクター、店舗スタッフとのつながりまで含まれると、単純な値段比較では動きにくくなると考えられます。価格差だけでは説明しきれない離脱しにくさにつながる可能性があります。
3つ目は、価値の単位が商品1点から体験全体へ移ることです。たとえば同じ価格帯のウェアでも、着用感だけでなく運動継続や情報取得、場への参加まで含まれると、顧客の頭の中の比較表はかなり複雑になります。
比較が複雑になるほど、最安値だけで意思決定されにくくなると考えられます。Lululemonがコミュニティ主導でブランドを育ててきた点は、外部のブランド分析でも繰り返し取り上げられています。
https://www.thedrum.com/news/2023/10/02/how-lululemon-built-brand-community-not-just-customer-base
会員施策が割引中心だと起きやすい逆効果
もちろん、割引中心の会員施策そのものが悪いわけではありません。問題になるのは、それが唯一の継続理由になってしまうことです。
その場合、顧客は「次のクーポンを待つ人」になりやすく、通常価格で買う理由が弱くなることがあります。会員化したのに関係が深まらず、むしろ価格感度だけが上がるリスクもあります。
さらにブランド側も、販促を止めにくくなることがあります。少しでも値引きが弱いと反応が落ちやすく、より強い条件でつなぎ止めようとして利益率を削りやすくなるためです。
これは会員施策のつもりで、実質的には価格依存の習慣を育ててしまう状態になりえます。初心者向けに言い換えるなら、割引は「今買う理由」にはなっても、「次も戻る理由」にはなりにくいのです。
Lululemon型の発想はここが逆です。今すぐ安く買わせるよりも、次回も戻りたくなる文脈を先に作ろうとします。
他ブランドでも応用できる、購入後に参加したくなる接点の作り方
Lululemonほど強いブランドでなくても、この考え方は応用できます。重要なのは大規模なイベントを開くことではなく、「買った後に関係が続く理由」を設計することです。
たとえば食品ブランドなら、購入者限定のレシピ配信やオンライン料理会が考えられます。コスメなら使い方講座や肌悩み別コミュニティ、スポーツ用品なら記録共有や練習会、初心者向けライブ配信などが自然です。
顧客同士のつながりをいきなり作るのが難しくても、ブランドと顧客の定期接点を増やすだけで意味があります。大切なのは、買った直後から次の接点が見えていることです。
設計のコツは3つあります。
- 商品体験を続けやすくする内容にすること
- 割引より参加メリットを明確にすること
- 購入直後に自然に誘導すること
たとえば店舗レシート、同梱カード、購入後メールで次の接点へ案内すると、会員登録が単なる販促同意で終わりにくくなります。重要なのは、値引きではなく参加したくなる理由を購入後に用意することです。
価格競争を避けたいなら、まず購入後に戻る理由を1つ増やす
Lululemonの事例からは、価格競争を避けるうえで、購入前の広告だけでなく購入後の接点設計が重要である可能性が示唆されます。商品を売った瞬間に関係が終わるブランドは、次回購入のたびに価格で比較されやすくなると考えられます。
一方で、買った後に運動習慣、参加体験、所属感、学びの場が続くブランドは、顧客の中に別の評価軸が生まれやすくなります。その結果として、「少し高いけれど離れにくい」状態につながる可能性があります。
これは特別な魔法ではありません。価格の代わりに、関係を積み上げているだけです。
マーケティング初心者がまず持ち帰るべき問いもシンプルです。自社の会員施策は、安く買わせる仕組みになっているのか、それとも買った後に戻りたくなる仕組みになっているのか。
もし後者が弱いなら、最初の一歩として自社会員施策に「得」ではなく「参加したくなる接点」を1つ追加してみるとよいはずです。価格競争を避ける第一歩は、値引き条件の見直しだけではなく、購入後接点の再設計から始めるほうが本質的な打ち手になりやすいはずです。