ニザダイやツノダシは、なぜ“あごを横にずらして”噛むのか

Creatures You Didn’t Expect

魚なのに“横に噛む”という違和感は、採食場所で見ると変わる

魚の口は、前に突き出すか、ぱくっと開閉するものに見える。少なくとも、左右にずらして噛むイメージはあまりない。だからニザダイ類やツノダシで、口先や顎の動きが左右にも調整されているように見える場面があると、少し引っかかる。

実際の姿を動画や紹介記事で見ると、そう見える理由は少しつかめる。口はただ開くだけではなく、対象に触れる向きを細かく調整しているようにも見える。もっとも、ここで言えるのはまず視覚的な印象までで、顎運動の機能自体は別に検証が要る。

面白いのは、この左右方向の調整のように見える動きが“主役の動き”には見えないことだ。常に左右へ大きく動かしているわけではない。むしろ目立たない補助動作のように見える。その半端さが、かえって気になる。

ニザダイ類とツノダシは、同じ餌ではなく同じ採食面に向き合う

この違和感を考えるには、まず相手を見る必要がある。ニザダイ類は一般に藻類やデトリタスを岩の表面からついばむ種が多い。一方、ツノダシは付着生物や海綿類などを食べることが知られている。どちらも泳いで逃げる大きな獲物より、岩やその表面の付着物に向き合う場面が多いが、主要な食物は同じではない。

つまり採食のしかたには種差があるが、口を“捕まえる道具”として使うより、表面をついばむ、ちぎる、こそぐように使う場面が目立つ種がある。サンゴ礁の表面は細かい凹凸だらけで、食べたいものがそのくぼみの近くに付いていることもある。

https://ocean.si.edu/ocean-life/fish/coral-reef-fishes

正面から一回かじるだけでは、取り切れない場面もある。だから必要なのは、大きな噛む力だけではなく、口先の当て方の調整だ。ここで左右方向の調整がもしあるなら、変な癖ではなく、採食場所に合わせた道具の微調整として働くのかもしれない。

横ずれは大きな力ではなく、顎の可動域で“当て方”を変える動きかもしれない

横にずれる顎運動というと、まず“何かを横にすり潰すため”だと思いたくなる。でも、ニザダイ類やツノダシでそう断定する根拠はここでは十分ではない。むしろ仮説としては、大きな破壊力より、接触の角度や位置を調整する役割も考えられる。

岩の面やくぼみに口を当てるとき、もしほんの少し左右に調整できるなら、歯列のどこが先に触れるかは変わりうる。正面から外れた場所でも、食べたい部分に引っかけやすくなるかもしれない。これはハサミというより、薄いヘラやピンセットの先端をわずかに返す感覚に近い。

もしこの運動が、ごく狭い場所でしか役に立たないとしても不思議ではない。狭い場所でこそ効く動きは、外から見るとたいてい目立たない。だが採食の成否は、そういう数ミリ単位の差で決まることがある。機能形態学の視点で見れば、重要なのは動きの派手さより、どの採食面でその可動域が効くかだ。

“ほぼ起きない運動”が消えないのは、岩のすき間でたまに効くからかもしれない

進化の話になると、よく使う機能だけが残ると思いがちだ。一般論としては、使用頻度が低くても、特定の場面で採食の成否を左右するなら形質が残ることはありうる。ただし、それがニザダイ類やツノダシのこの運動にそのまま当てはまるかは、別途の検証が要る。

たとえば、ふだんは普通に口を使い、ときどきだけ左右方向の調整が効く場面があるとする。もしその場面が、他の魚が届きにくい位置から栄養を取れる局面なら、機能の価値はゼロではない。さらにこの運動が既存の顎の構造の延長で維持できるなら、消えにくい可能性もある。

こう考えるなら、消えなかった理由は、特別に派手だったからではなく、役に立つ場面があったからかもしれない。むしろその地味さこそ、こういう運動の本質なのかもしれない。

岩の表面や一部のすき間では、口が小さな道具になる

ここまでくると、口の見え方が少し変わる。魚の口は単なる入口ではなく、地形に合わせて使う先端工具になる。ニザダイ類やツノダシの顎には、食べ物そのものだけでなく、食べ物が付いている“場所”への対応もあるのかもしれない。

岩の表面や一部のすき間で採食する場面では、獲物のサイズだけでなく、角度、奥行き、周囲の硬さが問題になる。もし口先を少し横に逃がせるなら、正面では当てにくい凹凸へアプローチしやすくなる可能性がある。これは食性そのものとは別に、採食面の幾何学への対応として解釈できるかもしれない。

だから左右方向の調整は、食べ方の主旋律である必要はない。藻類や付着生物、あるいは海綿類のような餌をその場から外す局面で、最後の微調整として働くのかもしれない。顎が少し横に動くように見えることには、平面ではなく凹凸のある面に対応する意味があるのかもしれない。

サンゴ礁魚の採食は、口の使い方の進化を比較すると見え方が深くなる

サンゴ礁の魚は、同じ海で同じ岩を見ていても、口の使い方が同じではない。吸い込むのが得意な魚もいれば、ついばむ魚もいる。削る魚、砕く魚、すき間を拾う魚もいる。

その中でニザダイ類やツノダシの横ずれのように見える運動は、万能な発明だとまでは言えない。本文では、どこでも使える大技というより、特定の採食面に対する細かな調整機能として考えてみた。だからこそ目立たず、知らなければ見落とす。

魚の顎は、前後に開くだけの単純な蝶番ではなかった。岩の表面を相手にした瞬間、それはかなり繊細な工具になる。ニザダイ類やツノダシでそう見える違和感は、魚を水中のシルエットではなく、表面を読む口先として見直させてくれる。

少し言い換えるなら、もしこの運動が残っているのだとすれば、消す理由がそこまで強くなかった可能性もある。進化はいつも派手な機能だけを選ぶわけではない。たまに効く小さなずれが残ることも、一般論としてはありうる。サンゴ礁魚の採食や顎の可動域、機能形態学の比較をたどると、この“少し横にずれる”動きも、口の使い方の進化として読みやすくなる。

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魚なのに“横に噛む”という違和感は、採食場所で見ると変わる
ニザダイ類とツノダシは、同じ餌ではなく同じ採食面に向き合う
横ずれは大きな力ではなく、顎の可動域で“当て方”を変える動きかもしれない
“ほぼ起きない運動”が消えないのは、岩のすき間でたまに効くからかもしれない
岩の表面や一部のすき間では、口が小さな道具になる
サンゴ礁魚の採食は、口の使い方の進化を比較すると見え方が深くなる