ハダカデバネズミは、なぜ“地下で声が多すぎる社会”をやめなかったのか――見えない群れで個体識別が消えない理由

Creatures You Didn’t Expect

地下で暮らすのに、ハダカデバネズミの社会はなぜこれほど声が多いのか

ハダカデバネズミを知ると、まず見た目に目がいく。けれど、少し調べると別の違和感が立ち上がる。あの動物は、暗い地下トンネルで暮らしているのに、意外なくらい発声が多い。

実際の様子を見ると、その社会は思ったよりにぎやかだ。映像で観察すると、鳴き声が行き来する空気がよく分かる。

静かな環境なら、音は目立つ。だったらむしろ、必要な時だけ鳴けばよさそうにも思える。にもかかわらず、ハダカデバネズミは短い声を何度も交わす。

ここで気になるのは、なぜ鳴くのかよりも、なぜそこまで声の多い社会をやめなかったのかという点だ。地下で視界はほとんど利かない。群れは近いのに見えない。その条件が、多様な発声を単なる連絡手段以上のものにしたのかもしれない。

細い地下トンネルでは、近くにいても仲間を見分けにくい

ハダカデバネズミは東アフリカの地下に長いトンネル網を掘って暮らす。しかも単独ではなく、真社会性と呼ばれる珍しい集団生活をする。女王個体を中心に、多数の個体が同じ巣系に属し、掘削や育児、食料探索のような仕事を分け合う。

こうした基本像は、スミソニアンの解説でもつかみやすい。

ただ、この暮らしでは、いつも一緒にいることと、いつも相手を把握できることが同じではない。トンネルは細く、曲がり、枝分かれし、土に囲まれている。少し先に仲間がいても、目では確認しにくい。

つまり彼らの社会は、密集しているのに視覚的には分断されている。これは地上の群れとはかなり違う。見えていれば沈黙で済む場面でも、地下では何らかの信号が要る。そこで声が前に出てくる。

多様な発声は、合図だけでなくコロニー所属や個体識別を支える

ハダカデバネズミの鳴き声研究で面白いのは、声が単なる警戒音や接触音にとどまらない点だ。2021年の研究では、もっとも一般的なソフトチャープが群れの所属情報を伝え、コロニーごとの方言を形づくっていることが示された。

研究の概要は、PubMedで確認できる。

ここで重要なのは、声が何が起きたかを伝えるだけでなく、同じコロニーの仲間かどうかを見分ける手がかりにもなっていることだ。暗い通路で姿が見えないなら、所属を示す目印はそれだけで価値を持つ。

しかも、その声の特徴は完全に生まれつき固定された印というより、群れの中で学ばれる要素を含むと考えられている。つまりコロニーへの所属を示す音声特徴は、身体だけで完結せず、社会の中で維持される。声は情報であると同時に、見えない群れを運営する輪郭でもある。

地下の群れでは、個体差が消えるより識別できる利益が大きい

直感的には、強くまとまった群れでは個体差は薄いほうが効率的に見える。全員が似た反応をし、似た役割を果たすなら、そのほうが単純だからだ。けれどハダカデバネズミでは、むしろ逆の圧力があったのかもしれない。

群れの規模が大きく、通路が複雑で、しかも役割分担がある環境では、仲間がいるというだけでは足りないことがあるのかもしれない。誰が近くにいるのか、誰が戻ってきたのか、誰に応答しているのか。そうした個体識別が、接触の維持や協調、ひいては群れの運営に役立つ可能性がある。

この点は、方言研究を紹介した一般向け記事でも補助的に確認できる。

https://www.science.org/content/article/naked-mole-rats-have-dialects

地下では、見えないことが不便なだけではない。見えないからこそ、声で個体が立ち上がる。沈黙より識別のほうが利益を持つなら、声が多い社会は無駄として切り捨てられない。

社会性が高いほど匿名になる、とは限らない

私たちは、集団が大きくなるほど個は埋もれると考えがちだ。学校や会社や都市では、数が増えるほど、名前より役割が先に来る感じがある。けれど、ハダカデバネズミは少し違う見え方を出してくる。

彼らの世界では、近さは匿名性を保証しない。むしろ、接触頻度が高く、逃げ場が少なく、互いの行動が生活に直結するからこそ、個体識別の価値が落ちない。群れでいることと、誰でも同じになることは別なのだ。

この直感の裏切りは、他の社会性動物とも少しつながる。たとえば鳥やクジラの音声文化にも群れの声はあるが、ハダカデバネズミではそれが完全な暗闇と細い通路の中で使われる。実際の飼育個体のふるまいを見ると、接触の多さと音声の近さがよく分かる。

見えない群れの社会性は、声で輪郭を保っている

ハダカデバネズミの声の多さは、にぎやかさの演出ではない。地下で暮らす群れが、自分たちの社会をほどかずに保つための識別装置のようなものだと考えられる。

見えない環境では、視覚だけに頼るのではなく、声が同じコロニーの仲間を見分ける手がかりや接触を保つ手段になっている可能性がある。視覚の代わりに、音声コミュニケーションが社会の輪郭を支える。その結果として、地下なのに静かではない社会が残ったのかもしれない。

もちろん、鳴き声のすべての機能が解けたわけではない。けれど少なくとも、あの過剰に見える発声は無意味なノイズではなさそうだ。暗闇は社会的な手がかりを消さなかった。むしろ声で、群れの輪郭を浮かび上がらせているのかもしれない。

この視点に納得したなら、次は社会性哺乳類や音声コミュニケーションの関連記事へ進み、暗所での情報伝達の進化を他種と比較してみると、ハダカデバネズミの位置づけがさらに見えやすくなる。

基礎情報を別の動物園の解説で確認したいなら、サンディエゴ動物園のページも参考になる。

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地下で暮らすのに、ハダカデバネズミの社会はなぜこれほど声が多いのか
細い地下トンネルでは、近くにいても仲間を見分けにくい
多様な発声は、合図だけでなくコロニー所属や個体識別を支える
地下の群れでは、個体差が消えるより識別できる利益が大きい
社会性が高いほど匿名になる、とは限らない
見えない群れの社会性は、声で輪郭を保っている