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ホホジロザメは、なぜ海を渡るのに“まっすぐ泳ぎ続けない”のか — ジグザグ潜航は、探すためではなく節約するためだった
ホホジロザメは、なぜ海を渡るのに“まっすぐ泳ぎ続けない”のか
ホホジロザメは、巨大で、速くて、いかにも一直線に進みそうに見える。だからこそ、外洋を移動する個体が深く潜っては上がり、また潜るようなジグザグの潜航パターンをとると知ると、少し意外に感じる。
実際の姿をつかむなら、まずは映像を見るのが早い。大きな体が水中でどう傾き、どう向きを変えるかは、文字だけではつかみにくい。
Great White Sharks getting close to divers in the cage.
Camera GoPro
オーストラリア ホホジロザメ
本編の方もぜひご覧ください
https://youtu.be/6DEQkud9R2Y

この動きは、長いあいだ「獲物を探しているのでは」と読まれてきた。もちろん、その意味がまったくないとは言えないが、いまはそれだけでは説明しきれないと考えられている。ホホジロザメの大規模移動は、単なる回遊というより、潜航パターンそのものに合理性があるのかを見直す必要があるからだ。遠回りに見える上下移動が、獲物探索だけでなく、旅のコストを下げる方法にもなっているかもしれない。
まっすぐ進んだほうが速そうなのに、そうしない理由
陸の感覚では、目的地が遠いほど最短距離をとるほうが合理的に思える。海でも同じだと考えたくなるが、ホホジロザメは長距離移動の途中で、しばしば深場と浅場を往復する。
この違和感がおもしろい。獲物を追う瞬間だけでなく、外洋を渡る旅のあいだにもこのパターンが現れるなら、それは気まぐれではなく、体のつくりと海の条件に合った動き方なのだろう。距離の長さだけでなく、どう泳ぐかという細部から移動を見直すと、この行動の意味が見えてくる。
追跡研究では、ホホジロザメが長距離移動中に規則的な上下運動を見せることが報告されている。概要をつかむなら、次の紹介が読みやすい。
海を横切るサメは、見えない“斜面”を行き来している
ここで思い浮かべたいのは、平らな海を水平に切って進む姿ではない。むしろ、見えない斜面を上ったり下ったりしながら前へ進んでいる姿だ。進路は水平線の上ではなく、水温や密度の層がつくる立体の中にある。
記録タグの研究では、ホホジロザメを含む大型遊泳魚が、日周的あるいは反復的に深度を変えながら進むことがある。海は一様な空間ではなく、浅い層と深い層で温度も明るさも抵抗も違う。その差をまたぐこと自体が、移動の一部になっている。
衛星タグ調査の紹介としては、Monterey Bay Aquarium の解説がわかりやすい。サメがどれほど広い海域を三次元的に使っているかが見えてくる。
https://www.montereybayaquarium.org/animals/animals-a-to-z/fishes/great-white-shark
鍵になるのは獲物ではなく、浮力と沈み方
ホホジロザメは、多くの硬骨魚のように浮き袋で中性浮力を保つ魚ではない。代わりに大きな肝臓に油をためて浮きやすさを少し稼いでいるが、それでも完全に“浮く体”ではない。放っておけば、ある程度は沈みたがる体だ。
この体なら、下りでは少ない力で前へ出やすい。逆に上りでは仕事が増える。そこで考えられるのが、下りで滑るように進み、必要なところだけ能動的に押すという配分だ。
ジグザグ潜航は、余計な上下ではなく、沈みやすい体を前進に変える工夫として読める。この「グライディング」に近い見方は、サメ類の遊泳効率を考えるうえでも重要になる。
基礎的な体の構造を押さえるなら、次の種解説が役に立つ。
The white shark (or great white) is one of the best known sharks, yet relatively little is known about its biology. It is one of the largest species of sharks, with an estimated maximum size of about 20 feet (600 cm) (Fergusson et al. 2009), though there are unconfirmed

温度差をまたぐ上下動は、体温や代謝の配分に関係している可能性がある
ホホジロザメは完全な変温動物ではない。周囲より高い体温をある程度保てるしくみを持ち、冷たい海でも筋肉や感覚器官の性能を落としにくい。ここが、一般的な魚と少し違うところだ。
ただし、ずっと高出力で泳ぎ続けるのが得とは限らない。深い冷水に入れば代謝や消耗のしかたも変わるし、浅い暖水では感覚や運動の切れ味を活かしやすい。
上下動は、単に場所を探るだけでなく、どの温度帯でどれだけ働くかという体力配分にも関係しているのかもしれない。海の層をまたぐことが、そのまま体温や代謝の配分につながっている可能性がある。
ホホジロザメを含むネズミザメ類の地域的内温性については、NOAA Fisheries の解説が参考になる。

ジグザグ潜航は“止まらない滑空”に近い
この動きには、海の中の鳥という比喩が少しだけ使える。もちろん翼はないし、同じ仕組みでもない。けれど、上りでコストを払い、下りで取り返すという感覚は、滑空の発想にかなり近い。
実際、水中映像で見るホホジロザメは、常に荒々しく尾を振っているわけではない。体をわずかに傾け、張ったまま、流れに乗る時間がある。そうした場面を見ていると、「泳ぐ」というより「落ちながら進む」に近い瞬間がある。
ホホジロザメを水中で間近で見て、その美しさを知りました。
Full Movie
4K Great White Sharks Cage Diving in Neptune Islands South Australia
https://youtu.be/6DEQkud9R2Y

この見方を補強するなら、外洋を移動するホホジロザメが長距離のあいだ摂餌をほとんどせずに進む可能性を示した紹介も手がかりになる。移動そのものの省エネ性を考えるうえで、こうした観点は重要だ。
獲物探しに見える動きが、旅そのものの設計図だった
ホホジロザメのジグザグ潜航は、見た目には落ち着きがない。獲物を探してきょろきょろしているようにも見える。けれど、その動きの中には、浮力の足りなさ、冷たい海の層、そして巨大な体を遠くまで運ぶための計算が入っている。
つまりこのサメは、海をただ突っ切っているのではない。海の中にある温度の段差や、沈みやすい自分の体さえ利用して進んでいる。まっすぐ進まないのは非効率だからではなく、獲物を探ることに加えて、まっすぐ進むより安い場面があるからかもしれない。
ホホジロザメを見る目は、ここで少し変わる。怖いか、強いかではなく、どうやって長い旅を支払っているのか。その問いで眺めると、あのジグザグは迷いではなく、かなり洗練された航海術に見えてくる。
この視点で読むと、ホホジロザメの大規模移動は、単にどこまで行くかではなく、どう省エネで渡るかという設計の問題として見えてくる。ほかの海洋捕食者の長距離移動戦略と比較すると、同じ「遠くへ行く」でも設計思想の違いがさらに見えてくるはずだ。