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「安い再エネを運べばいい」では済まない――Enel、Iberdrola、TotalEnergiesが抱える越境電力のリスク

The Global Current

域内発電の増強だけでは埋まらない、欧州電力市場の詰まり

欧州の再エネ拡大は進んでいる。にもかかわらず、欧州の脱炭素投資は、域内発電設備の拡大だけで完結しにくくなっている。電力システムの側から見ると、問題は発電量そのものより「どこで発電し、どう運ぶか」に移りつつある。

風況や日射条件に恵まれた場所は、必ずしも需要地ではない。系統接続の順番待ちや送電網投資の遅れ、送電網の混雑が、追加投資の速度を鈍らせている。

実際、送電網制約や許認可の遅れは、欧州委員会や各国規制当局でも繰り返し論点になってきた。現状把握の入口としては、Reutersの送電・再エネ制約に関する報道が分かりやすい。

https://www.reuters.com

こうした制約が続く限り、域内で発電設備を積み増すだけでは、脱炭素のテンポを維持しにくい。そこで浮上するのが、地中海を挟んだ北アフリカ連系案件である。

発想だけを見れば単純だ。欧州域内で場所が足りない、系統が詰まる、許認可が遅いなら、より条件のよい外部電源を高圧直流送電で取り込めばよいという考え方である。

ただし、ここで増えるのは発電だけではない。制度、外交、安保の論点まで一緒に流れ込んでくる。

Enel・Iberdrola・TotalEnergiesを比較すると見える、北アフリカ接続の意味

Enel、Iberdrola、TotalEnergiesを同じ文脈でみる際に重要なのは、北アフリカが単なる「安価な再エネ供給地」ではなく、欧州の脱炭素需要、立地制約、制度制約を考えるうえで参照されやすい地域だという点だ。

北アフリカ側には、広い土地、高い日射量、比較的大規模な開発余地がある。加えて、長距離HVDCの実装経験が広がり、海底連系そのものの技術的ハードルは以前ほど絶対的ではなくなった。

HVDCの基礎をつかむなら、Hitachi Energyの技術解説が分かりやすい。

重要なのは、これは「欧州が電力を輸入する」話というより、「欧州が自分の制度的限界を外部接続で補正する」動きとして論じられやすいということだ。域内増強が不要になるわけではない。

むしろ逆で、域内の系統整備が遅いほど、越境電力の魅力が相対的に高まる。その意味で北アフリカ接続は、成功の物語というより、欧州電力市場の未完成さの反映でもある。

比較の軸としては、北アフリカ連系案件への距離感、欧州公益企業としての系統観、政治リスク保険を含むリスク管理、そして送電規制の進捗をどう読むかが重要になる。

Enelをみる前提として重要な、地中海全体の系統価値

この論点は、単独プロジェクトの採算性だけでは説明しにくい。イタリアを含む南欧の電力市場では、再エネ拡大と同時に、需給変動の吸収、隣接市場との連系、価格差の裁定が重要になっている。

Enelのような広域事業者を考えるうえでも、北アフリカとの連系構想は「遠方の発電資産」ではなく、地中海圏全体を一つの調整可能な系統として見る文脈で捉えるほうが近い。

その背景には、イタリアと周辺地域を結ぶ連系構想の蓄積がある。たとえばイタリア送電会社Ternaは、チュニジアとのElmed連系を進めており、これはEnelの案件ではなく、イタリア電力システム全体の文脈でみるべき地中海横断送電の象徴的案件といえる。

こうした案件は、単なる輸入ではなく、時間帯ごとの需給調整や市場統合の幅を広げる意味を持つ。ここで問われるのは、再エネの「発電価値」より「系統価値」かもしれない。

太陽光や風力は単体では変動するが、地域をまたいで束ねれば価値の出し方が変わる。地中海の南北をつなげば、気象条件、需要ピーク、制度価格差の組み合わせから、新しい収益設計が可能になる。

Iberdrolaを含む再エネ大手が、越境電力を通常業務の延長で捉えうる理由

Iberdrolaのような再エネ大手は、再エネ開発を単なる発電所建設で終わらせない企業として知られる。需要家との長期契約、系統接続、ポートフォリオ管理まで含めて事業化する経験が厚く、越境電力もその延長線上で論じられやすい。

つまり、発電地が国境の外にあっても、契約と接続の設計で事業リスクを組み替える発想が取りやすい。ここに、こうした事業者の強みがある。

スペインはもともと再エネ資源が豊富だが、それでも欧州全体で見れば、接続制約や市場分断の問題から自由ではない。一般論として北アフリカ接続は、単純な低コスト電源の追加ではなく、再エネ供給の柔軟性を高める選択肢になりうる。

https://www.iberdrola.com

ここでのポイントは、越境電力が「例外的な大型案件」ではなく、PPAとネットワーク投資を組み合わせる通常業務の延長として捉えられうることだ。だからこそ、こうした事業者は、地理的距離の大きさより、契約上の管理可能性を重視する。

逆に言えば、管理できない政治リスクが残るなら、その分だけ事業コストは確実に跳ね上がる。

TotalEnergiesの北アフリカ展開を、石油・ガス後の再配置としてみる

TotalEnergiesの場合、北アフリカでの展開は発電事業の拡張にとどまらない。より大きいのは、石油・ガス時代に築いた関係資産を、再エネ投資の文脈でどう再配置するかという問題である。

北アフリカは同社にとって新規参入先ではなく、既存の外交・事業ネットワークを持つ地域だ。この前提が、他社とは少し違う。

近年の同社は、電力、小売、LNG、再エネを組み合わせながら、エネルギー企業としての重心を少しずつ移している。その流れは、同社の電力・再エネ関連ページから追いやすい。

その文脈で見ると、北アフリカでの再エネ・電力事業の拡大は「脱炭素のための新規案件」というより、「旧来の地政学的プレゼンスを次の収益モデルへ活かそうとする動き」に見える。

この見方は重要だ。なぜなら、TotalEnergiesの強みは技術だけでなく、国家間関係の扱いに慣れていることにあるからだ。

ただし、それは同時に、地政学の揺れを深く引き受けるという意味でもある。ガス契約の交渉に似た感覚で再エネ・電力事業を扱えば、電力市場特有の規制、価格、安定供給の難しさに直面する。

送電線を伸ばすほど、政治リスクは電力システムの内側に入る

北アフリカ送電の最大の論点は、発電コストより政治リスクの性質にある。石油やガスであれば、輸送先の分散や在庫、代替燃料によって、ある程度の緩衝が効く。

だが電力は、系統に常時つながり、瞬間ごとの需給一致が前提になる。つまり政変、規制変更、外交摩擦は、エネルギー価格の問題ではなく、系統運用の安定性に直結する。

この点は、欧州がロシア産ガスへの依存を見直した経験とも重なる。欧州委員会のREPowerEU文書を見ると、エネルギー安全保障が供給源の多様化だけでは済まないことが見えてくる。

北アフリカ接続もまた、多様化であると同時に、新しい依存関係の設計でもある。だから、海底送電線を敷けば終わりではない。

必要になるのは、長期オフテイク契約、政治リスク保険、規制当局間の調整、そして送電規制の進捗をまたぐ制度設計である。越境電力は安い電気を買う話ではなく、制度と安全保障を含めて「電力を共同管理する」話に近い。

結局のところ、Enel・Iberdrola・TotalEnergiesが北アフリカ送電に賭ける理由は、欧州の再エネ拡大が域内発電だけでは足りず、送電・立地・制度の限界を越境接続で補おうとしているからだ。その代わりに抱え込むのは、域外の政治リスクを電力システムの内側に取り込むという重い選択でもある。

このページの内容
域内発電の増強だけでは埋まらない、欧州電力市場の詰まり
Enel・Iberdrola・TotalEnergiesを比較すると見える、北アフリカ接続の意味
Enelをみる前提として重要な、地中海全体の系統価値
Iberdrolaを含む再エネ大手が、越境電力を通常業務の延長で捉えうる理由
TotalEnergiesの北アフリカ展開を、石油・ガス後の再配置としてみる
送電線を伸ばすほど、政治リスクは電力システムの内側に入る